歯科技工士(Dental Technician / Dental Technologist)について

歯科における重要なパートを担っている、歯科技工士のことを一般の人たちはあまりよく知らないと思います。歯科技工士は英語でデンタルテクニシャン(Dental Technician)といわれますが、単に歯を作る技術士にとどまらず、かみ合わせのバランスや自然な歯を再現できるような卓越した技術を持つ技工士のことを、現在アメリカの歯科界ではデンタルテクノロジスト(Dental Technologist)と呼んでいます。さらに、その中でセラミックによる技工を高いレベルでこなしている人たちは、デンタルセラミスト(Dental Ceramist) と呼ばれることもあります。ドイツでは、高い技術者に送られるマイスターの称号が与えられている歯科技工士もいます。

 欧米では、技術の高い歯科技工士はこのように呼称の上でも評価され、社会的な地位や生活のレベルも高く、日本の歯科社会のように「歯医者の下で働く」という雰囲気ではありません。

 歯科技工の仕事というのは、地味な仕事。一人一人の患者さんごとにすべてハンドメイドで作り上げるのです。どれをとっても、「既製品」があるわけではなく、一日に数個しかできない「職人による手造り一品もの」です。

 ティファニーのいびつな形をしたハートの金のネックレスが数万円もします。鋳型に合わせて何個も作れるものなのに。デザイン料だよ、というけれど、デザインというのは作者の意にまかせて創造することができるもの。悪く言えば、どんなでたらめでも許される世界です。しかし、口の中に入るインレーやクラウンなどが、歯科技工士の創造性にまかせていびつなハート型だったりしたら、違和感が強くてかめません。それにムシ歯や歯周病を引き起こすことにもなってしまいます。ミクロン単位の精度を追求し、患者さんに違和感なく装着でき、しかも本物の歯と区別できないように精巧に仕上げることができるスーパーテクノロジストたちの仕事は、ティファニーの指輪やネックレスよりはるかに価値のあるものだと思うのですが・・・。

◆歯科技工士の苦労

 日本の保険診療で金属のかぶせもの1本がおよそ5000円。そのかぶせものをつくる技工士の手間賃は二割程度がいいところです。すべて手作りですから、吟味して作れる数は一日に数個。朝も早くから夜遅くまで、目をしょぼつかせて仕事をしても、なかなか追いつかないのが現状です。いい加減に作ってあわなかったら作り直し。決して楽ではありません。

 スイス人同様に手先が器用な日本人のテクノロジストは、海外でかなり活躍しています。日本のスーパーテクノロジストは、どんどん海外に流出しているのも事実。一方で、労多くして実の少ない歯科業界から、繊細な技術を宝石などのデザイン、加工に生かすために転職している技工士もかなりいます。

 地道に日本の狭い技工室で、日夜患者さんの歯にあわせて精密な技工物を作製しているスーパーテクノロジストたちに、もっと光を!そして感謝を!拍手!!パチパチ。

 もしあなたが、歯科医院でかぶせものや義歯を入れてもらって、違和感もなく具合良く噛むことができたら、ドクターや歯科衛生士に対してだけでなく、それを作ってくれた歯科技工士のこともちょっと考えてみてください。診療室にはほとんど登場しない彼ら、彼女らなくして、質の高い歯科治療はあり得ないのです。

高木幸人(山形市/高木歯科医院院長)

高木幸人著「スーパーデンティストをさがせ!」(現代書林/1998.5)より


 

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